敬志『日に二回』

 深夜、岡山から増援で来ていた警官三人が、釜石から大槌へ向かう海岸線をパトロールしていると、海辺に大勢の人影を見た。その時期、夜でも家族を捜している人もいたのだが
、念の為に浜に降り声を掛けた。
 目の前で人影は消えた。
 パトロールは五人に増えたらしい。

 昼間、会社の同僚の友人が町で唯一復興したコンビニから吉里吉里方面へと向かおうとカーナビをセットしたのだが、ナビに従うと2回続けてコンビニに戻ってしまった。仕方がないのでナビを外して走り出すと、首の無い運転手が乗ったライトバンとすれ違った。

 十一月末、子供達のリクエストの品(肉とMドーナッツ)を土産に元カノを見舞った。
 夕暮れ直後だったのだが、毎年訪れていた大槌は既に闇に呑まれていた。街灯も信号も殆んど無く瓦礫も見えない。重い夜を走って元カノの家に着くと長女と一緒に出迎えてくれた。足元では猫が走り回っている。
土産を渡しながら、流石に気まずかったが警官が見たという海岸の場所を聞いた。
 そんな所いかなくても大丈夫だから
 怒るでもなく声を揃えてそう答えた。
 ここら辺で待ってれば、三時過ぎると皆逃げて来るから。
 昼と夜の三時過ぎ、毎日毎晩津波から逃げ続けている人々がいるのだという。
 町にいれば見れるよと、起伏の少ない口調で教えてくれた。
 帰路もあったので直にその場を辞した。
知っていた町の知らない現実を知った。
憐憫も感慨もわかなかった。
 ただ、残された人達は、繰り返し逃げてくる人々の中に故人や行方知れずの想い人を探そうとするのだろうかとだけ考えた。