いいだろう『キャバレーみちのく』

 いつの間にかポケットに入っていた葉書に導かれ、優は東北新幹線の上りホームに立っていた。多くの人で溢れかえっているのにホームは妙に静かだった。皆青白い顔で俯き黙って立っている。その時後から肩を叩かれた。
振り返ると仲良しの怜が立っていた。
「よかった。優と同じ列車だ」
 そう言って怜はポケットから同じ葉書を取り出した。
「ね、私達どこへ行くの」
 怜は首を傾け優の顔を覗き込んだ。
「まだ判ってないの」
 襲い来る津波。逃げ惑う人々。優は怜と手を取り合って走った。でも。
―思い出した。じゃあ私達、あの時―
 怜がうなずいた。
「この駅にいる人全員。皆それぞれの新しい地へ向かうの」
 新幹線が音もなく入ってきた。二人は並んで席に座った。東京に着き、葉書に書かれた通りに新宿の古めかしい店の前に立った。恐る恐る中を覗いた。と、そこには花魁姿の女性が立っていた。
「優ちゃんと怜ちゃんね。いらっしゃい。わちきはこの店のママ、高尾太夫でありんす。心配しなくていいわよ。ここは千年の昔から、みちのくの人達の憩いの場。
 みちのくは太古の昔から厳しい自然に晒され、西からの侵略者、貴族武士そして役人、商人や大企業に食い物にされ、人買い人攫い、女工集団就職。生きとし生きる者、男は勿論特に女には辛い土地だったわ。せめて幽霊となった今は楽しく愉快にすごしましょ。
 さあ今夜もまた成仏出来ない人々が飲みにくるわ。悲しい酒を甘いシャンペンに変えて。皆準備はいい?
 キャバレーみちのくの開店よ」