日野光里『女人禁制』

私の中学校は崖の面がむきだしの山が、すぐ近くにあり、それが窓からずっと見えていた。
景勝地と言えないこともないが、山育ちの人間にとっては、よくある光景のひとつだ。
その山に神社があり、毎年男だけの祭りがある。
祭りだけではなく、その神社周辺の山は女人禁制になっていた。
私などは、そう言われれば、じゃあ近寄らないでおこうと思う田舎者だ。
が、都会から来た女の先生が、いたくそれを不快に思っていた。
この現代において、女人禁制などというのはバカらしい標語らしい。
ある日、その女先生が、禁を破って山へと登ってしまった。
日曜の朝から消防団が出て、女先生を探す騒がしい音が町中に響いた。
夜になっても見つからず、結局、そのまま20年経つ。
今年、大きな地震があり、神社の社もかなり傾いてしまった。
その社の基礎部分から、干からびた木のような女先生が見つかったとひと騒動だった。
ああ、そう言えば、当時の騒ぎの中で、親たちが
「きになる、きになる」
と口々に心配していたが、あれは「気になる」じゃなくて「木になる」だったのかと思う。
旦那になった町の男も、あの神社の森には人の顔のような木がいくつもあると言っていた。
が、写真に撮ると、普通の木にしか映らないそうだ。
男の目じゃないと見えないのかもしれない。