只助『糞くらえ』

 適当な木を見つけ、根本に向かって放尿しました。大人二人で抱きかかえてもまだ余るほど、幹の太い木でした。それほど立派な木ですから、かけごたえも一入あり、私は嬉々としてありったけを注ぎました。
 事が済むと、じーっと誰かに見られている気がしました。当然、周りに人はいません。その視線は森から出て、家に着いても感じました。
 家の中にいても、外から感じる視線が気になりました。カーテンを閉めると、視線も少し気にならなくなりました。外でカラスが一羽、かあと鳴きました。
 翌日も変わらず、視線を感じました。むしろ視線の数が増えたように思えました。外へ出ると、数を増した視線が、ピタリと私を捉えてきました。仕事の最中も、決して私から視線が外れることはありませんでした。
 翌日、翌々日と、日が経つに連れ、次第に視線は増えていきました。
私は家中のカーテンを閉めっぱなしにすることが増えました。外を出歩くことも減り、仕事を休むことも増えました。
 このままではいけない。そう思った私は、家のカーテンを全て開け放ちました。数十もの視線が、一斉に私に集まりました。半ば自棄になっていたのだと思います。見るなら見ろ、と。視線を気にして閉じこもるのは嫌でした。見られていること以外に、実害がないことも大きく影響しました。
 そうして開放的になると、増える視線にも慣れ始めました。自意識過剰だったのではないかとさえ思えました。
 私は大きな木のことを思い出し、またあそこで尿がしたいと思いました。森へ入り、あの立派な木を探しました。少し時間はかかりましたが、無事に見つけることができました。
 いざ事を為そうとジッパーを下ろした頃。風もないのに木がざわりと動きました。頭上を仰ぎ見る私に、幾十もの鳥や獣の糞尿が降り注いできました。汚物に塗れ呆然となる私の耳に、何かの笑い声が、確かに聞こえてきました。