田中せいや『ドラッグストアにて』

 岩手県中央の、早池峰山のふもとに、ちょっとしたドラッグストアがあった。
 じめじめする夏の昼下がり。
 小太りの青年が走り込んできて、あせったようすで店内を物色しはじめた。
 やがてレジ台に商品をどっさり置くと、壱万円札を三枚差し出した。
 店主のおばちゃんが目をこらしてみると、すべてインキンタムシの塗り薬だった。
 青年に目を向けると、足を内股にしてもじもじやっている。顔中あぶら汗でしんどそうだ。
 こんなに買い込んで使いきれるんかいな。
 おばちゃんは不審におもいながらも、お金を受け取って、おつりを渡そうとした。
 すると青年はくびをふってつり銭を受け取ろうとせず、そそくさと店を出ていった。
 その晩、おばちゃんが売り上げ金を確認しようとレジスターをあけると、木の葉が三枚入っていた。
 ま、ええか。許そう。つらかろうよ、なにせ千畳敷きやからな。
 おばちゃんはククッと笑った。