新熊昇『組立模型、遠野物語の古民家』

 駅前の小さな書店は、入ってすぐの目に付くところに「デ○ア・ゴ○ティーニ」や「ア○ェット」と言った、いわゆる「週間百科」が置かれている。実はいままで一度も買ったことがないのだけれど、タイトルとイラストを見たとき、心が動いた。
「組立模型、遠野物語の古民家」創刊記念価格480円。創刊号の付録(もちろん付属の小冊子よりも、この付録のほうが目玉である)は、組み立てると貯金箱くらいになると言う古民家の置物だった。
 買って帰ってざっと仮組すると、貯金箱よりは大きく、優にCDラジオくらいはある。囲炉裏、小さなビニールの袋に入った囲炉裏の灰、南部鉄器らしい黒い鍋、天井の梁、陽に焼けた襖や障子、おしらさまを祀る棚、茅葺きの苔むした屋根などが、さながら手品師のタネみたいにあとからあとから出てくる。
(これは次号を買う必要はないのじゃないか? これ一冊でほぼ完結しているのでは? 商売になるのか?)
 さらに、水車小屋と河童淵のジオラマのキットまで現れた。どれくらいの時間がかかったのだろうか、憑かれたように一気に完成させた。小川はねっとりと流れ、水車はブーンという嫌な機械音を立てて回り出した。
 パーツとして黴臭い、饐えた臭い絣の着物もあったので試しに恐る恐る着てみると、吸い付くようにピッタリとはまった。
 それでもまだ何かが足りないような気がしたので部品箱の奥を手探ってみたところ、「仕上げ」と書かれた記念切手くらいのごく小さな紙の袋が出てきた。「これを開けるとキャンセルできません」
 ふと奥座敷の床の間の近くを眺めると、市松人形似た女の子がほくそ笑んでいる。
 廊下に立って遠くの水車小屋のほうを眺めると、幾人かのおどろおどろしい緑色の人影がたむろしている。切手ほどの小さな紙袋は、よく見ると最初から破れている。破損品だ。