きむら『衣川』

 森で友人らとはぐれ、辿り着いた所は古めかしい持仏堂。導かれるように中へ入ると、車座になった屈強な男たちが仄かな蝋燭の光に映し出されていた。
 その光景は、ひどく古い映画の一場面を切り取って再現したかのような、そんな錯覚さえ起きる永い時間が感じられる。
「じきに船頭が到着する手はずになっています。ご決断を」
 やがて私へ向かい、そのうちの一人が到底見当もつかないことを言い出すのだが、どこか彼らの顔に見覚えがあるような気にされる。
「我らは、たとえ地の果てまでもお供つかまります。むろん討ち果てる覚悟なら、それも一興」
 男が間を置かずに続けると、堪らず全身矢傷だらけの大男が咎める。
「三郎、そなたの意見など聞いておらぬ」と吐きすて、私へ向き直った。「無為に死ぬことはなりませぬ。我らの分まで生きてくだされ」
 無為に、死ぬ? して三郎とは……まさか伊勢のことか。なら大男は武蔵坊。まざまざと記憶が甦った。
 そういえば私は兄に追い詰められ、信頼を寄せる法皇にも見限られ、ここ奥州でも兄弟同然の者に裏切られた。
 しかしそれは、すべて私が大人になりきれていなかったせいでもある。ために郎党、いや仲間を苦境に追い込んでしまったのだ。
「兄が望むのは私の首だけのはず。そなたらには、ぜひとも船に乗って落ち延びてほしい」
 おそらく私は皆の願いに反して自害を選択したに違いない。着飾った武士の面目を彼らに強制させたのだろう。
 そんな愚行を粛すには、自らの言葉と行動によってしか拭えやしない。今、はっきりと知覚した。
 が、その言葉を発した瞬間、蝋燭の炎がふっと揺らいで消えた。慟哭と共に彼らの姿が闇に溶けた。
     
「どうした、こんな所で寝込んで」
「心配したぞ」
 いつの間にか寝込んでいたらしい。気づくと、友人らに肩を摩られていた。それにしても……この二人、彼らと面影が似ている。