2010-07-22から1日間の記事一覧

『若松城』/湯菜岸 時也

岩手の工芸品、南部鉄器は砂を固めた鋳型に東北の風景などの絵柄を凹凸をつけて描き、それに溶けた鉄を流して製造されます。それが出来ると『金気止め』という工程で、ゆっくりと炭火で焼き錆び止めをして、それをヤスリで研磨して、仕上げに色を塗り、それ…

『宵待ちの調べ』/紅侘助

久々に昼夜「幕引かず」で行われる「通り神楽」が別当家で行われると聞き、始めてこの眼で間近に「裏舞」を目にすることができると、喜び勇んで大償の地に足を運んだ。 陽の落ちる時分に別当家に到着すると、漸く神を舞殿に招く「打ち鳴らし」が開始されたば…

『山のカミサマ』/紅侘助

動けない。体が全くいうことを聞かない。 足下には体長十センチを超えるヤマナメクジの死骸が二つ、落ち葉と体液にまみれて横たわっている。私が踏み潰したものだ。 小枝や落ち葉を踏む感触とは異なる違和感に踏み出した足を除けると、目に飛び込んで来たの…

『狭間にて』/紅侘助

「舞殿」を設えた早池峰神社の社務所内は、真冬にも拘わらず熱気に溢れていた。岳神楽の正月舞初めは、神楽目当ての人のみならず初詣客も手伝って大変な賑わいだった。 幾度となく頂戴した御神酒のせいだけではあるまい。私は火照った体を少し冷まそうと、御…