2010-08-23から1日間の記事一覧

『晩餐』/樫木東林

母が倒れたと故郷の青森から会社に連絡が入った。慌てて東京駅から電車に乗り、教えられた県立の病院へと向かった。 病室の母は点滴を受けて閑かに眠っていた。容体はかなり悪いらしい。痩せた母を見ていると居たたまれなくなり、気持ちを落ち着かせようと病…

『善助さんとの再会』/新熊 昇

久方ぶりに鯨油の臭いがしました。二度ほどお会いしたことのある石川善助さんが微かに漂わせていた匂いです。善助さんは片方の足が不自由なのに、漁船に乗り組んだり、実にいろんな仕事をされていました。最初は呉服店の店員、雑誌記者もしたこともあると伺…

『願掛け』/槐妖

岩手のある都市に蹈鞴で有名だった街がある。その昔男たちは鉄を得る為に必死で働いた。だが、結果病に倒れる者も多く居たと言われていた。その中で異質な病気に陥り亡くなった方々が居たらしい。そこで、悲しんだ家族が祠を建て祀ったという。其れは狭い路…

『雫』/槐妖

地質学者の関香はしめ縄が張り巡らされた東北のとある洞窟の前に立って居た。「先生そんな軽装で大丈夫なのですか?」完全重装備な山岳ガイド山根が言った。「真夏なのだから大丈夫に決まっているでしょ」香はあっさり応える。日本最古の鍾乳洞と言われる此…