『八乙女の処刑場』/新崎

 八乙女は交通事故が多発しています。昔、処刑場だったそうです。よく打首を行ったとか。けれど、そもそも八乙女は国道4号線が通っているので、交通量はとても多いのです。だから、交通量が多いだけと言われればそれまでなのですが。八乙女は仙台市内にあります。地下鉄駅があり、人、車の往来は多いです。駅から地上に出て左に行くと、すぐ押しボタン式の横断歩道が見つかります。そこが交通事故多発する場所なのです。
 横断歩道の傍には石碑があります。交通事故死没者慰霊塔と書かれた大きな石碑があって、いつ来ても花束が置かれています。私も何度かお祈りをしたことがあります。
 ある日、私はその横断歩道を渡ろうとしました。それは今から六年ほど前になります。ボタンを押し、歩行者用の信号が青になったのを見て私は歩き出しました。その時、英単語を心の中で唱えていたことをよく覚えています。英単語は「enough」でした。不思議と、そんなしょうもないことを覚えています。
 ふと、ごおっと風の音が近くで聞こえました。強い風の音で、私は振り返ってみるとそこには大きなトラックが。でも、足が動きません。あ、死ぬんだなと思いました。
 その時、誰かに腕を引かれました。それで私は足を動かすことができました。二歩踏み出して、けれど私は勢い余って道路に倒れ込みました。すぐ傍で急ブレーキの音が聞こえ、風が私の近くを通り抜けていくのを感じました。起き上がってみると、左に大きく逸れたトラックが見えました。
 信号を見てみると、歩行者用のは既に赤になっていました。けれど、あの短時間で赤になるのはありえません。そして、私の腕を引っ張ってくれた人もいませんでした。なんだか、今でもあの時のことはよくわかりません。でも、あの石碑に私の名前が書かれていたかも知れないと考えると、本当に怖くなります。