2010-08-21から1日間の記事一覧

『焚き上げ』/神沼三平太

ある年の九月。まだ残暑の厳しい折、カメラマンのNさんは、山間の景色を写真に撮ろうと、北東北にまで脚を伸ばした。 乗り合いバスでしばらく揺られ、そこから徒歩で山に入る。山道を歩きながら、時間を忘れて撮影した。持って来たフィルムを全て使い果たし…

『猫又』/新崎

猫は歳を取ると猫又になることがあるらしい。 少し前に、私は田代島に行った。田代島とは宮城県の石巻湾にある島の一つで、別名猫の島である。行ってみると本当に猫が多い。 猫・猫・猫。犬も歩けば棒も当たるならぬ、人も歩けば猫に当たる。まあ、当たりは…

『松島ガッパ』/新崎

「松島にはカッパが出るんだよ」と彼女は言った。松島には無人島がたくさんある。そこにカッパは住んでいるんだそうだ。食事はどうしているのかと聞くと、事も無げに「焼き牡蠣を食べてる」と答えた。なんと千匹以上ものカッパが住んでいるらしい。 「本当だ…

『八乙女の処刑場』/新崎

八乙女は交通事故が多発しています。昔、処刑場だったそうです。よく打首を行ったとか。けれど、そもそも八乙女は国道4号線が通っているので、交通量はとても多いのです。だから、交通量が多いだけと言われればそれまでなのですが。八乙女は仙台市内にあり…

『叔父の思い出』/丸山政也

昭和三十年代の終わり頃のことだ。私は小学校の低学年だった。 私の両親は共働きで年中忙しくしていた。子供よりも仕事。幼心にもそういう家族の暗黙の了解のようなものを私は感じ取っていた。夏休みだというのに、どこにも出掛けようとしない私を見るにみか…

『避雷針』/藤本桂悟

日本には針供養などという行事があります。 何故、そんな事をする必要があるのでしょうか。その由来を私は知りませんが、モノにも魂が宿っていることは確かです。 十数年ほど前のことでしたでしょうか、私は毎日雷の夢を見るようになりました。夢の中では激…

『アオダイショウ』/藤本桂悟

高校三年の夏休みのことです。盛岡市立図書館で受験勉強をしようと思った私は高松の池の畔を自転車で走っていました。すると突然、道路脇の草むらから一匹のアオダイショウがするするっと這い出てきました。よけようとしたはずみで私は近くの電柱に激突して…

『路線バス デンデラ行き』/ヒサスエ

見舞いの帰り。市立病院前からバスに乗った。乗車したのは私と老人1人。私は後部座席の右端。老人は運転席のすぐ後ろ。老人の背中に視線を飛ばすと、老人はくるりと振り返った。皺枯れた顔に不釣り合いな、ゴロリとした目。すぼんだ口元をニィと上げた。私…

『沼袋のお姫様』/akiyan

…滝沢村の南端にある沼袋地区は雫石川が流れていて、近くに四百年以上前に掘られた鹿妻穴堰があります。子供の頃、学校から帰ってきて家の畑に母がいないと、自転車に乗って急いで田んぼに母を探しに行きました。沼袋に行くまでは長く暗い杉林のトンネルを抜…

お詫びと訂正

昨日アップいたしました神沼三平太さまの作品名を、誤って『炊き上げ』と表記してしまいました。正しくは『焚き上げ』です。作者の神沼さま、および関係者の皆さまに大変ご迷惑をおかけいたしました。お詫びの上、訂正させていただきます。また、新崎さまの…